モダンな恋愛VS古いタブー
2004.5.27(木)
BBC News
9年間の秘密のロマンスを経て、ウッジャーラさんとアサードさんはついに結ばれた。
しかし両家の家族は相当の「ハイ・プライス」を支払うこととなった、なぜなら
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彼女はヒンドゥー教徒、彼はムスリムだからだ。
ふたりの関係が始まって以来10数年の間、ウッジャーラさんとアサードさんはできるだけ頻繁にデートを重ねたが、いつも秘密に、そして決して2人だけで会うことはなかった。
他の多くの愛し合う人々と同様、彼らは将来結婚し、子供を持ち、2人で家庭を築くことを願っていた。
しかしこのカルカッタのミドルクラス出身カップルにとっては、こんなつつましい願いもそう簡単に叶うことはなかった。
21世紀インドにおいてなお、宗教を超えた婚姻は未だタブー意識が強く残っているのである。
インドには、多くのヒンドゥとムスリムたちが、数世紀にわたり同じ土地に暮らしつつ、互いに嫌悪感を抱き、時には敵意と暴力の歴史を繰り返してきた。 |

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カルカッタの人口1400万人のうち、5人に1人はムスリムとされ、またヒンドゥ・ムスリムの壁を超えた結婚は、非常にまれである。
近年西部グジャラート州やボンベイ(ムンバイ)で見られた、宗教を巡る大規模な流血暴力事件と比較すると、カルカッタのあるウェスト・ベンガル州はまだそういった例が少ないとは言えるが、やはりヒンドゥ・ムスリム2つのコミュニティ同士は完全に互いを受け入れているとは言いがたい。
不安と警戒
多くのムスリムたちは、メジャリティ(多数派)であるヒンドゥのうち、祖先が強制的にムスリムに改宗させられたことをいまだに根に持つ人々に圧迫されることに対して警戒している。
また英領統治時代の法律により、ヒンドゥとムスリムの差別化が奨励されたこともあって、1947年のインド独立後は、両コミュニティとの間で流血のバトルが火を吹いた。
ヒンドゥ、ムスリムともにインド分離独立後、国内で吹き荒れた暴力の嵐を、誰もが鮮明に記憶している。
ウッジャーラさんの父親アショクさんは言う、
「特にヒンドゥの間には、今もなお憎悪が残る。長い歴史が我々の間には横たわっている。」
アショクさんにとって、もっとも最悪に恐れていたことは、自分の娘がムスリムと結婚することだった。
ウッジャーラさんとアサードさんは大学時代に知り合った。
ウッジャーラさんの両親は自由を重んじ、特に娘に性別や宗教の枠を超えた友達ができていくことには歓迎だった。
またアサードさんが「友人として」、自宅へ訪問する時にはいつでも大歓迎だった。
しかし、愛の芽は着実にこの2人の中に芽生えていた。
ウッジャーラさんの父アショクさんが、娘とアサードさんの本当の関係を知った時は、とても打ちのめされたという。
「わたしは本当に望まなかった。そのことを知ったときはまるで自分が死んでしまったかのような心境だった。今はだいぶ落ち着いたが。」
見合い結婚
18ヶ月の間、ウッジャーラさんの両親は娘をほとんど軟禁し、アサードさんとの関係を断ち切ろうと躍起になった。
そしてヒンドゥ男性との見合い結婚を無理やりに取り付けたが、その結婚は、ウッジャーラさんが夫となった男性とその家族たちに虐待されるという悲劇によって幕を閉じ、わずか10ヶ月で再び両親の元へ戻ってきた。
それからというもの、ウッジャーラさんは父親とめったに口をきかなくなった。
アサードさんはまだ待っており、秘密のロマンスは続いた。
ところでインドでは異教徒同士の結婚は法律上可能であり、結婚後も自らの宗教を守ることも許される。
しかしアサードさんとウッジャーラさんの場合は例外だった。
アサードさんの家族は厳格なムスリムであり、ウッジャーラさんが改宗しない限り決して受け入れないと主張した。
ウッジャーラさんは両親、2人の兄弟、父親の弟とその妻、娘、その祖母と共に暮らしており、全員が敬虔なヒンドゥで、毎年家族の神が祭られる寺院へ、3日間のプージャ(祈祷)と奉仕をするために訪れる一家だ。
一族の恥
この大家族、そして大一族において、過去に誰もムスリムと結婚した者はいない。
あり得ないことだった。
ウッジャーラさんはもし自分がアサードさんと結婚したら、それは一族の恥となることを十分承知していた。
アサードさんの妻になることは、すなわち彼女を愛し育て、守ってきた家族を失うことになるのだ。
9年間もの間、ウッジャーラさんとアサードさんは互いの結婚したいという望みと、両親を喜ばせたいという望みとの狭間で葛藤し、苦しんだ。
29歳と31歳となり、責任のある年齢に達した彼らは、このままでは時間だけが過ぎていくと、とうとう互いの両親に結婚したいという意志を打ち明けた。
ウッジャーラさんはムスリムに改宗し、アサードさんと結婚したら、彼の両親、祖母と3人の親族たちの一員になる。
彼女の両親は、その決断をついには受け入れたものの、結婚式への出席は拒否している。
それほどまでに娘の結婚について恥に思い、現在はこの結婚の事実を誰も知る者のいない土地へと引越しをする計画すら立てている。
こういった不安も今に始まったことではなく、実際ウッジャーラさんの叔父とその妻と子供たちは、ジョイントファミリーの暮らすひとつ屋根からすでに離れてしまったという。
ムスリムと喜んで結婚する娘など、不吉で陰気なのだ。
そんなアサードさんとウッジャーラさんにとって、それでも自分たちの結婚式は「ほろ苦い甘さ」なのだ。
ついに2人一緒になれるという喜びが、胸の痛み全てを癒してくれる。
たとえウッジャーラさんが家族のうち数人と、一生会うことができなくなっても・・・
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「あら、ひどい。それぐらい許してやれば。」では済まされない根の深いものが、いまだにヒンドゥ・ムスリム両教徒の人々の心の中に残っているのだと思います。
今のわたしたちのできることは、この2人の幸せを、心から祈ることだけです。
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