リモコンで、遠隔治療
BBC, 2003.8.22
インド南部の都市バンガロールのナラヤナ・ルダヤライ心臓病院院長のデヴィ・シェッティ医師は、リモコンを手にしてテレビの前に座っている。
ところが、このビデオセット、実は衛星通信で遠く離れたインド東部カルカッタの病院とつながっている。
スクリーンに映るのは、とある心臓病患者とその担当医師。シェッティ医師が手にしているのは「Zapper」と呼ばれる特殊なリモコンだ。
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衛星を通じて、シェッティ医師の適切な診断や助言を、患者たちは仰ぐ。
シェッティ医師の隣では同僚の医師が、別の画面に映し出されるAngiograms、X線写真など患者に関する詳細な情報とともにサポートしているので、シェッティ医師がさらに迅速で的確な診断をすることができる。
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これは無料医療サービスの試みの一つで、すでにたくさんの前例を生んでいる。
無料医療というだけでなく、時にはシェッティ医師が遠く離れた村に住む親子にバンガロールの病院までの交通費を援助したりしたケースもある。
非常に忙しいシェッティ医師だが、毎日この「Telemedicine(テレビ治療)」に時間を割くことは欠かさない。
テレビ診療は今から2年ほど前に始まった。
インドでは、専門医のほとんどが大都市に住んでいるため、遠隔地や過疎地に住む貧しい人々が、適切な医療を受けられる機会が非常に乏しい現状がある。
ところで病気治療の多くが外科手術を必要としないケースが多い。
そこで、患者の診療を遠隔からでも行なえるアイデアの一つがこの方法だった。
バンガロールにベースを置くインド宇宙科学研究機構(ISRO)は資金援助に乗り出している。
現在このナラヤナ・ルダヤライ病院の13の衛星ビデオは、インド国内の病院のみならず、ISDN回線を使ってマレーシアやモーリシャスといった海外ともつながっている。
さらにタンザニア、バングラデシュ、またパキスタンへも拡大予定である。
シェッティ医師はこのテレビを使った遠隔診療について、
「実際の医療現場でも、医師が患者に触れなければならないのは、手術の時のみの場合がほとんどです。
簡単な診察であれば、医師と直接接する必要がないのです。
したがって、医師がどこにいようとも、患者は診察を受けることができるのです。」
と語る。
感情や感覚は衛星を通じて問題なく伝わります、とシェッティ医師は付け加える。
また、ナラヤナ・ルダヤライ病院はこのテレビ診療については、治療と費用の連結を放棄する。つまり無料医療である。そして需要はとても大きい。
シェッティ医師とその同僚医師達は、インドおよびその周辺の辺境地域のメインタウン全てに、テレビ医療を広げていくことを望む。
またこのリンクはいまや病院を越えて広がっている。
バンガロールの中央刑務所は刑務所の中では珍しく、ビデオ中継により受刑者は裁判所に赴くことなく訴訟と判決を聞くことができる。
ここに最近ナラヤナ病院とのテレビ診療も始まった。
刑務所のような特殊な場所では、なるべく危険を犯して受刑者を外へ連れ出すことは避けたいことであるようだ。
いまこの刑務所では、受刑者の健康が塀の外に出ることなく常に保証されていると言ってよい。
一言で言うならば、シェッティ医師は、患者にとって、ほとんど神のような存在であろう。
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